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東京地方裁判所 昭和47年(行ウ)81号 判決

原告 共立医療電機株式会社

被告 渋谷税務署長

訴訟代理人 布村重成 ほか二名

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 〈省略〉

理由

一  原告の請求原因第二の一の事実(本件各更正の経緯等)、被告主張第三の二1の事実中、被告がその主張のとおり加算減算を行つて本件各更正をしたこと、加算項目である本件係争各年度の「損金計上役負賞与」、昭和四四年度及び昭和四五年度の「過大役員報酬」を除くその他の加算項目及び減算項目については、かかる修正を行うべき根拠が存在したこと、同2の事実のうち、田村が本件留学をし、原告が田村に対し、右留学期間中本件給与等を支払つたこと、以上の各事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、被告が本件給与等を田村貞一に対する役員賞与ないし役員報酬と認定し、前記のとおりその全部ないし一部の損金算入を否認したことが適法であるか否かについて判断する。

1  〈証拠省略〉を総合すると、次の事実を認めることができる。

(一)  田村は、昭和三八年三月立教大学経済学部経営学科を卒業し、一時株式会社太平洋行に勤務していたが、昭和四二年四月初旬父田村貞一が代表取締役をしていた原告に入社し(田村貞一が田村の父であり、かつ、原告の代表取締役であつたことは、当事者間に争いがない。)、主として経理関係の仕事を担当していたこと、田村は海外留学を経験した友人に勤められて留学を思い立ち、その希望を父田村貞一に伝えた結果、同年八月三〇日田村貞一外二名で構成された原告の取締役会において、田村を米国サンフランシスコ州立大学に留学させることが決定されたこと、右決定前に既に田村により右大学への入学手続及び米国への渡航手続がとられていたこと、本件留学前に、原告が従業員の海外留学を認めた例はなく、本件においても、田村は入社後五か月を経たに過ぎないのに、他の従業員を選考の対象とした形跡はないこと。

(二)  田村の米国への渡航旅費に田村貞一個人が負担し、また、本件給与等は田村の家族が必要に応じて適宜送金するという方法がとられたこと。

(三)  田村は米国において最初サンフランシスコ州立大学で、その後ヒールド大学で学んだが、履修した科目はいずれも経営学を中心とする基礎的教養科目であつたこと、すなわち、田村は、昭和四二年九月から昭和四四年三月までの六か月間サンフランシスコ州立大学英語専門コースで英語を、その後は同大学大学院で経済原論、会計学、市場論等を履修した後同大学を退学し、昭和四四年三月から同年一一月まではヒールド大学で会計学、貿易英語の他、米国史、心理学等を履修したこと(右各大学への入学ないし退学の事実は、当事者間に争いがない。)。サンフランシスコ州立大学からの退学及びヒールド大学への入学は原告の指示によるものではなく、田村の意思に基づくものであること、その後、田村はヒールド大学を退学し、昭和四四年一二月から昭和四六年二月末まで三和銀行サンフランシスコ支店において、現地採用職員として計算事務及び外国為替輸出手形買取事務に従事し、毎月約六〇〇ドル前後の給与等の支払いを受けたが、右就職は、田村が昭和四四年二月米国人と結婚(右就職及び結婚の事実は当事者間に争いがない。)したことに伴つて、原告からの給与だけでは生計を維持できなくなつた事情によるものであり、右就職に際し田村は自己が原告の従業員であることを秘していたこと。

以上の事実が認められ、〈証拠省略〉のうち、右認定に反する部分は採用することができないし、〈証拠省略〉と対比すると、前記昭和四二年八月三〇日の取締役会の当時、原告においてかかる「海外留学に関する規定」が制定されていたかどうかは疑わしく、本件留学が原告の留学制度に基づくとする原告の主張は採用することができない。他に右認定を左右するに足る証拠はない。

以上の事実によれば、本件留学は、原告の業務命令に基づき原告の従業員の地位を保持したままで行われた形式をふんでいるけれども、右に認定した留学の動機、留学渡航の手続、留学者の選考の方法、渡航費の負担者等をみれば、原告が田村貞一の支配する同族会社であればこそ田村の本件留学が実現したものというべきであり、また留学の内容が一般的基礎教養科目にすぎないことや、田村が前認定の事情の下で三和銀行サンフランシスコ支店に就職している事実をみれば、田村は本件留学中原告の業務に従事していたとはとうてい認められない。前記の取締役会の決定も単に形式を整えるための手段にすぎず、本件留学の実質は、田村の一般的資質の向上を目的とするものにすぎないと認めるのが相当である。

2  これに対し原告は、田村は、三和銀行サンフランシスコ支店における貿易実務の研修、医療機器等の商談、商品調査に従事したから、原告の業務の遂行として留学したものであると主張する。

しかしながら、三和銀行サンフランシスコ支店に勤務した事情は、前認定のとおり結婚に伴う生計費の不足を補うためであり、貿易実務の研修のため勤務したものとは認められないし、また、外国における銀行に就職しなければ貿易実務の研修ができないものとはとうてい考えられない。〈証拠省略〉によれば、田村は、留学中時折医療機器関係のカタログの収集、施設の見学等を行つた事実がうかがわれるけれども、それは、留学の機会を利用してカタログの収集等を行つたという程度のものにすぎず、前認定の事実と対比すれば、右の事実があるからといつて、田村が本件留学中原告の業務に従事していたということはできない。また、田村が本件留学中原告のため商談を行つたことを認めることはできない。よつて、原告の右主張は理由がない。

3  次に原告は、本件留学により原告の人材養成、貿易業務の基礎を築く等の成果がもたらされたから、本件給与等は、原告の営業活動を発展きせるため必要不可欠な経費であると主張する。

しかしながら、本件のように長期間の海外留学をしなければ人材の養成あるいは会社代表者としての基礎的教養を身につけることができないとはとうていいえない。また、本件にあらわれた全証拠をもつても、本件留学がなければ原告の貿易業務が成立し得なかつたと認めることはできない。そうすると、本件留学は、前認定のように田村の一般的資質の向上を目的とするものというべきであり、本件給与等は、原告の業務の遂行上通常必要な費用と認めることはできない。よつて、原告の右主張も理由がない。

4  したがつて本件給与等は、父である田村貞一が負担すべき田村の学費、生活費を原告が負担したというべきであり、このような営利会社として不合理な行為が可能であつたのは、まさに原告の同族会社としての社員構成の特殊性に基づくものであることは明らかである。そして、このような行為計算は、法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるから、法人税法第一三二条の規定を適用し、本件給与等のうち、賞与部分を田村貞一の役員賞与と認定してその損金算入を否認し、給与部分を田村貞一の役員報酬と認定したうえ、別表(二)記載のとおり(別表(二)の計算過程については、当事者間に争いがない。)株主総会の決議により定められた原告の役員報酬支給限度額をこえることとなつた昭和四四年度三七四、〇〇〇円、昭和四五年度二四、〇〇〇円についてその損金算入を否認した本件各更正には、なんら違法の点はないといわなければならない。

三  よつて、原告の本件請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 杉山克彦 時岡泰 青柳馨)

別表(一)

年度

区分

年月日

所得金額(円)

昭和四三年

確定申告

四四・二・二八

九二、一四四、九三二

更正

四六・五・三一

九二、四七〇、八〇七

昭和四四年

確定申告

九九、四七〇、三六九

更正

四五・六・三〇

一〇〇、二七六、八六九

再更正

四六・五・三一

一〇一、〇八一、五八二

昭和四五年

確定申告

四六・三・一

一三一、九五〇、九二九

更正

四六・五・三一

一三四、四八五、六三二

審査請求

四六・六・二九

一三三、八五一、六三二

別表(二)

番号

項目

昭四四年度

昭四五年度

備考

原告が損金に計上した

役員報酬額

六、八五九、〇〇〇円

七、三四四、〇〇〇円

右のほか、被告が役員

報酬として認定した額

一、五一五、〇〇〇円

一、六八〇、〇〇〇円

田村巌に支

給した給与

手当(賞与

を除く)

計(1+2)

八、三七四、〇〇〇円

九、〇二四、〇〇〇円

株主総会で定められた

役員報酬支給限度額

八、〇〇〇、〇〇〇円

九、〇〇〇、〇〇〇円

差引超過(否認)額

(3-4)

三七四、〇〇〇円

二四、〇〇〇円

法人税法施

行令六九条

二号による

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